治りはしないが生きづらさを軽くすることはできる〜発達障害による言葉の問題〜

先週のレターに言語聴覚士の岩田よしき先生からご感想のメールが届いた。今まで発達障害を専門とする医師や心理士とは接したことはあるが、言語聴覚士と話したことはない。言語聴覚士は発達障害の言葉の問題をどのようにケアしているのか話を聞いた。
姫野桂 2026.01.29
誰でも

今まで100名以上の発達障害当事者と接して文章を書いてきたが、コミュニケーションの苦手さに触れたことはあっても「言葉」そのものに着目したことはなかった。今回、言語聴覚士の岩田よしき先生からメールをいただいたことをきっかけに発達障害当事者の言葉や話し方について考えてみた。

発達障害の人の話し方は以下のような特徴があると一般的には言われている。

・論理的、辞書のような話し方で、親しい関係であっても敬語を崩さない

・会話のキャッチボールができない(共感がない、遠回しな言い方が伝わらない)

・話があちこちに飛んで着地点がない

・順序立てて話すことができない

・非常に早口。相手の話を奪ったり被せてしまうこともある

・吃音症(どもり)

私自身もADHDの特性から自分の好きなことの話になると、早口でまるでオタクのような話し方になる。また、とっさに言葉が出ないことがあり、一旦頭の中で整理して文章を組み立ててから話すため、しゃべるよりも書くことの方が得意だ。ライターの仕事をしているのはそのためでもある。話すことが得意な人は司会やアナウンサー、ラジオのパーソナリティーといった職が向いているのだろう。

特徴的な話し方であっても、相手ときちんとコミュニケーションが取れていれば問題はない。しかし、話し方に問題があって困りごとが発生すれば、それは障害といえる。

岩田先生自身も吃音症で悩んだ経験から言語聴覚士になったのだという。

「子どもの頃、みんなが当たり前にできていることができなくてつらい思いをしていたんです。相談できる場所もなくて、話し方のせいでいじめられたこともありました。それで、大学卒業後に言語聴覚士の資格を取り、子どもや保護者の方向けに相談・訓練をできる教室を開きました」(岩田先生)

現在岩田先生は言葉の教室「いわたコトバのそうだん室」で、小児領域の言葉や発達の困りごとに関して相談を受け、訓練を行っている。一番多いのが自閉スペクトラム症の相談。多くの単語を知っているのに、適切な場面で使用することができないのだという。知っているのにうまく扱えないもどかしさ。

私自身は算数LD(発達障害の一種で知的な問題はないのに簡単な計算が困難な障害)があるため、中高時代は数学の公式は覚えられるのにどの場面で使えばいいのかがわからなかった。自閉スペクトラム症で言葉の困りごとがある子どもも、私が算数LDにより感じた「材料はあるのにできない」というしんどさを抱えているのだろう。

岩田先生はことばに問題を抱える子どもや保護者向けに、今年1月26日「ことばの見立てシート」を無料公開した。これは言葉の困りが出やすい場面・どのような問題があるか・問題が起きやすい条件と助けになる工夫、といったもののチェックリストのシートだ。A4用紙1枚にまとまっているため、これだけで園や学校、療育などの現場で共有できる。

あくまで子ども向けに作られているが、少しアレンジすれば高次脳機能障害で言葉が出にくい人が、職場などで配慮のために使うこともできそうだと感じた。

このシートにはどんな場面で困りごとが出るかのチェックもある。以前、吃音症の漫画家の安藤たかゆきさんを取材した際、歌うときは吃音が出ないので合唱団に入って楽しく歌っていたというエピソードを話してくれたのを思い出した。吃音症については原因などはっきりとわかっていないことが多いが、場面によっては吃音が出ないこともあるのだ。

先述したとおり、「ことばの見立てシート」は無料で公開されており、すでに導入している施設もある。無料で公開した理由について岩田先生は次のように語る。

「うちの教室の集客目的ではなく、言葉の悩みを持つ子どもや保護者への支援が目的なんです。また、このシートを使うことで相談を受ける側の効率化につながります。より多くの人に適切な支援を届けたいんです」

発達障害の困りごとには「適切な」支援や情報が必要なのだ。私自身子どもを産んでから、ネットで育児について調べていたら、アルゴリズムにより子どもの発達に関する誤った情報をSNSで見かけるようになった。例えば、ワクチンで自閉症になってしまうとか、無表情で赤ちゃんの世話をすると発達障害になってしまうという偽情報だ。発達障害は生まれながらの脳の特性なので、途中から発達障害になることはない。

ただ、発達や発達障害に関して一般の人より少しだけ知識があるつもりの私でも、自分の子どもの発達はいちいち周りと比べてしまう。幸い、現在5ヶ月の息子は育児書通りに育っている。クーイングの時期も首すわりの時期も育児書に書かれていた時期に訪れてホッとした。しかし、息子より若い月齢の赤ちゃんがもう寝返りをしたとSNSで見かけると「うちはまだだ!」と焦ってしまう。

また、読み聞かせをすると息子は絵本と私の顔を交互に見る。これも正常な発達だと知り安心した。こうやってできること・できないことに一喜一憂してしまうのは良くないと思いつつ、やはり自分の子どもとなると気になってしまうのだ。

しかし、発達は個人差がとても大きいので、SNSの情報にいちいち振り回されないように務めたいところだ。

「発達障害は治せる!」といったデマがSNSに投稿されていることもるが、発達障害は障害なので完治というものもない。岩田先生が行っている言葉に関する困りごとも同じだ。

「完全に治るとは言い切れませんが、訓練することで言葉への不安や生きづらさを軽減することはできます。また、言葉の発達には大きな個人差があります。言葉を話すのが早い・遅いが気になる保護者の方も多いと思いますが、スタートダッシュが早いからといって最終的な言語能力は必ずしも関連しません。言葉が出るのが遅かったとしても、小学校中学年くらいには発達の差が縮まってきます」(岩田先生)

治りはしないけどマシにはなる。

これは私が発達障害に対して常日頃思っていることだ。完全に治ったらそれはそれで生きやすいとは思うが、そうなると自分が自分でなくなるような気もする。私は算数ができないが、代わりに文章を書いてお金を稼ぐことができる。会社勤めは難しいがフリーランスならうまく働ける。そんな思いで今日(こんにち)まで生きてきた。一種のアイデンティティになっている部分もあるのだ。

マシになるのならいいじゃない。

これからも自分の発達特性に関しては変に気張らず「マシ」を目標に歩んでいきたい。

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